《問題の所在》
多重債務に陥っているときに、債権者から給与の差し押さえを受けることがあります。
差押えを受けると給料の4分の1が支払われなくなり、債務を完済するまで差押えは続きますので、差押を放置しておくと生活が立ち行かなくなってしまいます。特に、
自己破産状態にある方が、給与差押を受けてしまうと
明日の生活にも困ってしまいます。
ですから何とか差押えを解除(ストップ)しなければなりません。
自己破産状態の方が、給与差押を受けてしまった事態に至ると、自己破産は「したくない」、とか自己破産には「費用が掛かる」とか悩んでいる場合ではありません。
気持ちの踏ん切りをつけて、「自己破産」手続きの方法で債務整理をして、一刻も早く弁護士に相談して差押えを解除すべきです。
なぜなら
「自己破産」手続きの中で給与差押えをストップできる!
からです。
※「個人再生」でも差押えをストップできます。
個人再生を希望する方で給与差押のストップをされる方は、こちら☜
※注意 :「任意整理」の方法ではストップできませんので、ご注意ください。
以下では、自己破産手続きの中での給与差押えをストップさせる方法について、説明していきます。
破産手続きの流れと給与差押ストップ
給与差押をストップする方法は、自己破産手続きが、
①同時廃止手続になるか
②管財手続きになるか
で違いがあります。
要約すると、
-
- ①
- 同時廃止事件の場合
破産手続廃止決定後に、差押を担当する裁判所に「上申」することで差押えの手続きが中止されます。 - ただし、免責が確定するまでの期間中は、差し押さえられた分に相当する給与は受け取ることはできず、その分は通常会社(雇用主)にプールされます。後日、免責決定が確定すれば、給与全額を受け取ることができるとともに、プールされた給与分を遡って受け取ることができます。
- ②管財手続事件の場合
- 自己破産手続き開始と同時に差押えの手続きが効力を失いますので、破産手続き開始後は、すぐに給与全額を受け取ることができます。
自己破産の大部分のケースが、①同時廃止型となります。
管財手続きになるか、同時廃止手続きになるかの基準についての説明は、こちら☜をご参照ください。
それでは最初に、自己破産手続きの流れの中での差押えストップを図解しますので、理解に役立ててください。
★ポイントは、とにかく手続きを『急ぐ』ことです!!
破産手続き開始決定が出ない限り何も始まりません!!
注意)自己破産を申し立てただけでは、差押手続きをストップさせることはできません。
破産手続き開始決定が出されることが必要です。
これに対して、個人再生手続では、申し立てをすることで、差押中止の申立ができます。
個人再生を希望する方で給与差押のストップをされる方は、こちら☜をご覧ください。
同時廃止手続きで給与差押をストップさせる方法
自己破産の申立
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まず、自己破産の申し立てをします(同時に、免責許可の申し立てをしたものと扱われます。)この段階では、まだ差押をストップさせることはできません。次の破産手続き開始決定(破産手続廃止決定)まで待たなければなりません。
ですから申し立てを完璧にして、速やかに廃止決定が出るように、弁護士に依頼することをお勧めします。
⇓
破産手続開始(同時廃止)決定
⇓
同時廃止事件の場合は、後述する管財手続きとは異なり、破産手続き開始決定(破産手続廃止決定)を受けただけでは差押の効力は失われませんが、次の「執行中止の上申」をすることで、差押をストップさせることができます。
破産法249条1項
免責許可の申立てがあり、かつ、第216条第1項の規定による破産手続廃止の決定・(中略)・があったときは、当該申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行・(中略)・はすることができず、破産債権に基づく強制執行等の手続又は処分で破産者の財産に対して既にされているもの・(中略)・は中止する。
⇓
執行中止の上申
⇓
実務では、強制執行(債権差押)手続の中止を求める上申書を執行裁判所(差押えを担当している裁判所)に提出することで、給与差押えなどの強制執行手続きは免責が確定するまでの間、中止されます。つまり、
破産手続き開始決定 = 差押えの中止
になるのです。
なお、執行裁判所への添付書類は、破産手続開始同時廃止決定正本ですが、原本還付申請をして原本の還付を受けることができます。
この段階では、差押え手続きはあくまで一時中止されるだけで、もし免責手続きの結果、免責不許可となれば、再び差押え手続きが再開されることになります。つまり、
破産手続き開始決定 ≠ 差押えの失効
ということになるのです。
したがって、差押え手続きが中止されている間は、会社(雇用主)は差押え分の給与の支払いを留保する(あるいは供託する)ことになりますので、破産者は差押えにかかる給与分については
受け取ることはできません!
次に述べる免責許可確定後に、破産者はそれまで会社に留保されていた給与を受け取ることができるとともに、それ以降は給与全額を受け取ることができるようになります。
⇓
免責許可決定の確定
⇓
そしていよいよ、 免責許可決定が確定しますと、中止した破産債権に基づく差押手続はその効力を失います(破産法249条2項)。
破産法249条2項
免責許可の決定が確定したときは、前項の規定により中止した破産債権に基づく強制執行等の手続又は処分及び破産債権に基づく財産開示手続は、その効力を失う。
つまり、
免責許可決定の確定 = 差押えの失効
になるのです。
⇓
債権差押(執行)取消の上申
⇓
そこで、免責許可決定が確定したら、執行裁判所に強制執行(債権差押)手続きの取消を求める上申書を提出することで、免責手続中の差押対象範囲の給与を受け取れることになります。
執行裁判所への添付書類は、免責許可決定書正本、および免責許可決定確定証明書正本ですが、コピーを一緒に提出すれば原本の還付を受けることができます。
差押命令取消決定
執行裁判所が、債権差押命令を取り消す決定をします。
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給与の全額取得
⇓
取消によって、破産者は、給与全額を受け取ることができるようになるとともに、それまで会社に留保されていた給与を受け取ることができます。
管財手続きで給与差押をストップさせる方法
自己破産の申立
⇓
まず、自己破産の申し立てをします。
申し立ての段階では差押え手続きはストップしませんので、債務者としては、一刻も早く、次に述べる破産手続き開始決定を得る必要があります。
早く開始決定を得るポイントは、申立書に不備な箇所を作らないということです。
申立書に不備があったりすると開始決定が遅れます!
ですから申し立ては、専門家である弁護士に依頼した方が無難です。
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破産手続開始決定
⇓
管財事件の場合は、自己破産手続開始決定が出されると同時に、差押えの手続きが効力を失います(破産法42条2項)。また、債権者が個別に破産者の財産を差し押さえることができなくなります(破産法42条1項)。
破産法42条
破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分・(中略)・で、破産債権若しくは財団債権に基づくもの又は破産債権若しくは財団債権を被担保債権とするものは、することができない。
2 前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分・(中略)・で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。
つまり管財手続きの場合は、
開始決定=差押の失効
になります。
但し、執行裁判所(差押担当裁判所)には、破産開始決定があったことは分かりませんので、次に述べるように、破産管財人がその橋渡しをします。
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管財人による債権執行取消の上申
⇓
実務上の手続きとしては、破産管財人が、破産手続開始決定の正本を添付して、執行裁判所に「債権執行取消の上申書」を提出し、執行裁判所に差押の取り消しを求めます。
⇓
執行裁判所による取消決定
⇓
管財人の上申に対して、執行裁判所が、差押を取り消す旨の決定をして、給与差押は取り消されます。
※以上の手続きは破産管財人が行いますので、債務者の方は特段の手続きをとる必要はありません。
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給与の全額受領
一定期間経過後、執行裁判所から会社に、差押え取消の通知が行きます。これにより、会社から全額の給料を受領することができます。
破産手続き開始決定前に回収した強制執行
すでに、差押え手続きで回収されてしまった分については、取り戻せないのが原則ですが、申立人弁護士が受任通知を発送後、申立前に強制執行された分については、例外的に破産管財人弁護士が取り戻し、破産財団に組み込みます。(債権者に配当します。)