■債務整理における司法書士と弁護士の違い~最高裁判決を解説~
債務整理をする場合、素人が自分で対応するのは難しい点があるので、弁護士や司法書士などの法律の専門家に対応を依頼することが多いです。このとき、弁護士か司法書士のどちらに依頼すれば良いのかがわからない方もいらっしゃるでしょう。
平成28年(2016年)6月27日、最高裁判所において、司法書士が債務整理で取り扱える金額を140万円までとする内容の判決がありました。この判決によって、司法書士の債務整理事件の取り扱いが、大きく限定される可能性があります。
そこで今回は、司法書士が債務整理において取り扱える借金の金額を140万円と限定した最高裁判所判決の意味について、解説します。
目次
■1.債務整理の専門家である弁護士と司法書士の違い
債務整理をすると、苦しい借金問題を解決することができます。債務整理を依頼することができる専門家には弁護士と司法書士がいますが、このどちらに手続きを依頼する方が、メリットが大きいのでしょうか?以下では、弁護士と司法書士の根本的な違いを説明します。
1-1.弁護士はもともと法律問題のスペシャリスト
弁護士は、もともと法律問題のスペシャリストとして、あらゆる分野の法律問題を取り扱ってきました。債務整理はもちろんのこと、金銭問題や不動産取引、賃貸借や離婚など、法的トラブルであれば何でも制限なく解決することができます。
債務整理事件についても、古くから弁護士が解決のために努力を重ねてきた結果、今の債務整理方法が確立されたと言えます。
このように、弁護士はもともとオールマイティーな法律家として、あらゆる分野の法律問題に取り組んできた法律の専門家です。
1-2.司法書士はもともと不動産登記の専門家
司法書士は、もともと不動産登記の専門家です。依頼を受けて、代理人として不動産の移転登記や抹消登記、権利設定登記などを行っています。今でも司法書士の業務の主たる部分は不動産登記です。
司法書士が債務整理事件に参入してきた歴史は新しいです。具体的には、平成14年の司法書士法改正によって、一部の債務整理事件を取り扱えるようになっただけです。
また、すべての司法書士が債務整理事件を取り扱えるわけではありません。きちんと国の研修を受けて法務省の認定を受けた「認定司法書士」のみが債務整理事件を処理することができるのです。
このように、弁護士と司法書士とでは、もともとの法律家としての性格が全く異なりますし、債務整理事件に取り組んできた歴史も取り扱える範囲も全く異なります。
■2. 司法書士が債務整理を取り扱う際の制限
平成14年以降司法書士が債務整理事件の取り扱いができるようになったとは言え、その範囲はかなり限定されています。
以下では、司法書士の債務整理事件処理の権限の制限内容についてご説明します。
2-1.任意整理、特定調停の場合
司法書士が任意整理や特定調停の手続きを行う場合、取扱金額が制限されています。具体的には、司法書士は、経済的利益が140万円以下の事件しか取り扱うことができません。
よって、140万円を超える経済的利益があるケースでは、司法書士は任意整理や特定調停の代理人業務をすることができないのです。過払い金請求の場合も同様です。
たとえば、140万円を超える金額の過払い金請求を司法書士に依頼することはできません。
この点、弁護士であればそのような取扱金額の制限はないので、経済的利益が何百万円、何千万円の事件であっても問題なく処理することができます。
2-2.自己破産、個人再生の場合
司法書士が自己破産や個人再生をする場合にも、代理権の制限があります。これらの手続きにおいて、司法書士には書類作成代理権しかありません。つまり、依頼者の代わりに書類を作成する代理権しかないと言うことです。申立や手続き進行自身は依頼者が自分でしなければなりません。
これに対し、弁護士には完全な裁判代理権があります。よって、弁護士に自己破産や個人再生を依頼すると、書類を作成するだけではなく申立手続きや手続き進行全般において代理人業務を行ってくれます。
■3.司法書士が取り扱える140万円の解釈の対立
任意整理や特定調停事件、過払い金請求事件では、司法書士は経済的利益が140万円までの事件しか取り扱うことができません。この140万円の意味の解釈方法について、弁護士側と司法書士側で大きな対立がありました。
弁護士側は、「借金の元本が140万円を超える場合、司法書士はその債権者についての債務整理手続きをすることができない」と主張していましたが、これに対し、司法書士側は「借金の減額幅が140万円を超える場合には、司法書士はその債権者についての債務整理手続きをすることができない」と解釈していました。
任意整理などの手続きにおいては、利息制限法を超える高利息での取引があるケースでは、借金額を利息制限法に引き直し計算することによって、借金の元本を大幅に減額することができるケースがあります。司法書士は、この減額幅を基準として、140万円を超える減額が無い限りは、司法書士でも債務整理事件を取り扱うことができると主張していたのです。
この解釈によると、借金額がいくらであっても、たとえ500万円でも1,000万円であっても、減額幅が140万円を超えなければ司法書士が債務整理事件を取り扱えることになります。
実際に、多くの司法書士が、この解釈に基づいて、借金額が140万円を超えるケースで債務整理をしてきました。
これに対して、弁護士側は「そもそも借金額が140万円を超える場合には司法書士には取り扱いができない」と主張するわけですから、両者の主張内容には大きな対立があることがわかります。この問題に対して終局的な決定をしたのが、今回の最高裁判所の判決です。
■4.司法書士が取り扱える事件を限定する判決の意味
平成28年(2016年)6月27日、最高裁判所は「司法書士は、借金の金額が140万円を超える場合、その借金について債務整理事件を取り扱うことができない」という内容の判決を出しました。この判決内容は、上記の弁護士と司法書士における「140万円」の解釈の対立について、弁護士側の主張に沿った判断をしたことになります。
この判決によって、今後、司法書士は1社からの借入額が140万円を超える事件については、任意整理や特定調停、過払い金請求などの手続きができなくなります。
今までは「借金の減額幅が140万円以下なら司法書士でも取り扱いができる」と主張して、借金額が140万円を超える事件の処理もこなしていた司法書士たちが、これらの事件に取り組むことが不可能になります。
司法書士が取り扱える債務整理事件の数が相当限定されてくる可能性が高く、その分弁護士が処理すべき事件数が増えてくることが予想されます。
今後任意整理や特定調停、過払い金請求事件を依頼する専門家を探す場合には、借金額が140万円を超える債権者がいる場合には司法書士には依頼できないので、弁護士を探す必要があります。
■5.司法書士よりも弁護士に債務整理を依頼すべき理由
今回、最高裁の判決によって、司法書士が取り扱える140万円の制限の意味がかなり限定されたので、今後は司法書士に依頼できる債務整理事件が減る可能性がありますが、この問題以外にも司法書士より弁護士に債務整理事件を依頼すべき理由があります。
そこで、以下で解説します。
5-1.費用が二重にかかるおそれがある
司法書士に過払い金請求事件を依頼した場合の問題です。この場合、司法書士は、140万円を超える過払い金請求をすることはできません。
しかし、過払い金請求をする当初は、過払い金の金額が明らかになっていないので、とりあえず司法書士に依頼してしまうケースがあります。
借金を利息制限法に引き直し計算してみると、140万円を超える金額の過払い金が発生していることがあります。そうすると、司法書士は事件処理をすすめることができなくなるので、依頼者は継続して司法書士にその過払い金請求を引き続き依頼することができません。この場合、司法書士には辞任してもらって、別途弁護士を探す必要があります。
そうすると、新たに弁護士を探して依頼する手間もかかりますし、費用も二重にかかってしまいます。
5-2.不誠実な司法書士がいる
司法書士は、140万円を超える過払い金請求ができません。そこで、利息制限法に引き直し計算をして140万円を超える過払い金が発生していたら、本来、司法書士はその時点で辞任する必要があります。
しかし、司法書士によっては、過払い報酬ほしさに、無理矢理請求額を140万円以下に落とし込んで和解してしまう人がいます。
たとえば、200万円の過払い金が発生している事案では、司法書士は辞任すべきですが、辞任せずに、業者に対して140万円以下の請求しかせず、不利な条件で和解してしまうのです。
もちろん依頼者に対しては、本当は200万円の過払い金が発生していたという説明はしません。依頼者は、本来請求できるよりも少ない金額しか請求出来ず不利益を受けますが、司法書士がその説明をしないので、知ることがありません。
このように、不誠実な司法書士に引っかかると、せっかく多額の過払い金が発生していても、請求する機会がなくなって大きな損失が発生します。
5-3.司法書士は簡易裁判所の代理権しかない
司法書士に債務整理事件を依頼するデメリットとして、司法書士には簡易裁判所の代理権しかないことが挙げられます。
過払い金請求をする場合には、相手方業者と話し合いができない場合、過払い金請求訴訟を起こす必要があります。
このとき、請求金額が140万円以下の場合には簡易裁判所で手続きができますが、140万円を超える場合には地方裁判所で手続きする必要があります。
また、原審が簡易裁判所のケースでも、どちらかが判決に不服で控訴する場合には、控訴審は地方裁判所になります。
ところが、司法書士には簡易裁判所の代理権しかありません。よって、司法書士は140万円を超える過払い金請求訴訟の代理人をつとめることができないだけではなく、過払い金請求訴訟が控訴審に移行した場合もやはり代理人をつとめることができないのです。
たとえば、一審で司法書士に過払い金請求訴訟を依頼していても、相手業者が控訴してきた場合には、控訴審は自分で対応しなければならないということです。もし自分で対応するのが難しければ、改めて弁護士を探して依頼する必要があります。
このようなことは非常に手間ですし、やはり費用も二重にかかってしまいます。
弁護士であれば、簡易裁判所だけではなく地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所、家庭裁判所など、あらゆる裁判所で完全な代理権があります。
よって、はじめから弁護士に依頼しておけば、スムーズに過払い金請求手続きを行うことができます。
5-4.個人再生、自己破産で司法書士には書類作成代理権しかない
司法書士には、個人再生や自己破産事件において書類作成代理権しかありません。よって、手続きは依頼者自身が行う必要があります。
この場合、本人申立事案となってしまうので、手続きに非常に時間がかかるケースがあります。また、自己破産にかかる予納金の金額も高くなることがあります。
弁護士申立の場合には、管財予納金は最低限の20万円で済みますが、本人申立事案の場合には50万円程度かかることがある(裁判所による)からです。
さらに、司法書士には書類作成代理権しかないので、自己破産や個人再生手続きにおいて裁判所で開かれる各種の手続きに参加することができません。たとえば、自己破産で免責審尋(裁判官との面談)や債権者集会が行われる場合にも、司法書士は参加することができません。依頼者は、自分一人でこのような場に臨む必要があります。
これに対して、弁護士に依頼した場合には手続きに参加することができるので、免責審尋や債権者集会にも出席して意見を述べたり、依頼者を擁護したりしてくれます。
このようなことは、依頼者にとってはとても心強いことです。
5-5.弁護士の方が、交渉力が高いことがある
債務整理手続きにおいては、債権者との交渉が必要になる場面があります。特に任意整理や過払い金請求事件では、債権者との交渉次第で結果が全く異なってきます。
ここで、司法書士よりも弁護士の方が、交渉力が高いことが多いのです。
相手方業者にしてみても、司法書士が相手の場合よりも弁護士が相手の場合の方が、プレッシャーがかかりますし、もともと弁護士は法律問題のスペシャリストとして示談交渉にも慣れているので、司法書士より交渉力が長けていることが多いのです。
このように、弁護士の方が司法書士よりも交渉力が高いことも、債務整理事件を弁護士に依頼すべき理由の1つとなります。
■6.債務整理は司法書士よりも弁護士に依頼すべき
以上のように、今回の最高裁判決によって、司法書士が取り扱える債務整理事件が相当限定されてくる可能性が高いです。また、それ以外にも司法書士より弁護士に債務整理事件を依頼するメリットがたくさんあります。
そこで、債務整理を専門家に依頼する場合には、司法書士ではなく弁護士に依頼する方が、メリットが多く、おすすめです。
■まとめ
今回は、司法書士が債務整理事件で取り扱える借金の金額を140万円に限定した最高裁判決について解説しました。
司法書士は、経済的利益が140万円を超える債務整理事件を取り扱うことができませんが、この140万円の意味について、最高裁は、「借金額が140万円を超える場合には取り扱いができない」という解釈を明らかにしました。
このことにより、今後は司法書士が取り扱える債務整理事件の数が相当減ってくることが予想されます。
それ以外にも司法書士より弁護士に債務整理事件を依頼するメリットが大きいので、債務整理をしたい場合には弁護士を探して依頼しましょう。
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