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弁済額が遺産相続により増えてしまうケース

弁済額が遺産相続により増えてしまうケース

借金の支払が苦しくて、債務整理を検討していたところ、突然、親が亡くなり、遺産が入ってくるようになった!

 

このような場合、遺産を受け取ることによって、手続きにどのように影響するのでしょうか?そして、どのような対策を取ることができるのでしょうか。

 

 

1.債務整理

債務整理とは、借金の支払で生活が苦しくなっている人が経済的再生を図るために行う手続きのことで、主に任意整理、自己破産、個人再生の3種類があります。

 

1−1.任意整理

任意整理とは、債権者と債務の減額や支払い方法などの条件について交渉し、合意した方法によって、債務の支払を続けることです。

 

これは、各債権者と債務者(あるいは債務者の代理人である弁護士か司法書士)の個別の交渉によって行われるもので、裁判所の手続きではありません。

 

1−2.自己破産とは

自己破産とは、裁判所に自分が債務超過であることを申告して、破産手続きを行って、免責を求める手続きです。借金をすべてチャラにして、再出発したいときに利用します。

 

1−3.個人再生とは

個人再生とは、債務超過に陥っている場合、もしくは、陥る可能性がある場合に、住宅ローンを除く債務を減額してもらい、弁済計画に従って支払いを行うことを裁判所に求める手続きのことです。

 

住宅ローンを除く債務が5,000万円以下であること、定期的な収入があることなどが条件で、自宅を残したいとか、破産には抵抗があるという人が利用します。

 

2.遺産相続が債務整理に与える影響

 

2−1.財産があると任意整理は困難

どうしてもお金がなくて払えない、このままでは生活できないからという事情がある場合に、債権者の犠牲のもとに、借金を整理、減額もしくは免責してもらって、自分の生活を立て直すために債務整理の制度があります。

 

債権者からすれば、債務者にお金がないからそのような譲歩をするのであって、相続によって財産を得たのであれば、その財産によって借金を返して欲しいということになります。

 

そのため、相続によって遺産を得た場合には、任意整理に応じてもらうことは難しくなります。

 

2−2.個人再生と精算価値保障の原則

個人再生の申立前後で遺産相続があった場合はどうでしょうか?

個人再生は、住宅ローン以外の債務総額の5分の1程度まで減額してもらうことができます(ただし、100万円以下にすることはできません)。

 

ところが、個人再生には、清算価値保障の原則という決まりもあります。
これは、弁済額は、債務者の財産をすべて換価(売り払って現金に換えること)した場合の金額を下回ることはできないという決まりです。

 

例えば、住宅ローン以外の総債務額が、1,000万円であれば、その5分の1は200万円です。これを原則として3年間で返済できるように計画を立てます。

 

しかし、債務者の財産(預金、保険、不動産、自動車、現在の退職金の8分の1など)を現金換算すると、300万円になるという場合は、最低弁済額は、300万円となり、これを原則3年間で返済するように弁済計画を立てることになります。

 

つまり、財産が増えると、弁済しなればいけない金額が増えるということです。

 

2−3.自己破産と配当

遺産を受け取って、財産が増えた場合、自己破産申立には2つの影響があります。

 

1つ目は手続きのための費用が高くなるということです。

自己破産の申立を行うとき、財産がほとんどない人は、「同時廃止」という手続きで自己破産の申立ができます。しかし、一定以上の財産がある人は、「管財手続き」で自己破産の申立をしなければなりません。

 

2つの手続きの大きな違いは、「破産管財人」という人が、「債権と財産を調査し、財産を換価して配当する」という手続きをしてくれるため、この破産管財人の報酬や必要な実費を「破産予納金」として準備しなければならないということです。

 

2つ目は、財産を配当しなければいけなくなるということです。

 

自己破産では、自由財産と認められる財産以外は、換価して債権者への配当に充てなければならなくなります。自由財産として保有しておくことを許される金額以上の遺産を受け取った場合には、債権者に支払うことが必要になるということです。

 

3.遺産分割と債権者取消権・否認権

 

3−1.債権者取消権

そうすると、債権者に払うより、他の兄弟に多く相続させたいと考えて、自分の取り分を0にしたり、極端に少なくしたりするような遺産分割を行うことを考えるかもしれません。

 

しかし、そのような内容の遺産分割は、債権者によって取り消される可能性があります。

 

最高裁判所平成11年6月11日判決
「共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである」

 

債権者取消権とは、民法424条に定められている債権者を保護するための制度で、債務者が、債権者を害することを知りながら、自分の財産を減少させるような行為を行った場合には、その行為を債権者が取り消すことができるとされています。

 

この規定を使って、債権者は遺産分割協議の取消を請求することができます。

 

民法424条1項
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときはこの限りでない。
2項
前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

 

3−2.否認権

①自己破産

否認権とは、破産法第160条に定められているもので、財産減少行為及び無償行為などを一定の要件のもとで、否認することができる権利です。破産管財人は、否認権を行使して財産を取り戻し、取り戻した財産を換価して債権者に配当します。

 

遺産分割協議に対して、この否認権を行使することができるかどうかの基準については、下記の判例が参考になります。

 

東京高等裁判所平成27年11月9日判決
「遺産分割協議は、(中略)破産法160条1項所定の詐害行為否認の対象となり得る場合もあるものと解される」
「遺産分割協議は、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらないと解するのが相当である」
「遺産分割協議が、その基準について定める民法906条が掲げる事情とは無関係に行われたものであり、遺産分割に仮託してされた財産処分であると認められるような特別な事情があるときには、破産法160条3項の無償行為否認の対象に当たり得る場合もないとはいえないと解される」

 

上記判例では、破産者(弟)の破産管財人が、亡父の相続財産のほとんどを取得した兄に対して、遺産分割協議が、破産法160条3項の無償行為にあたるとして、否認権を行使して訴訟提起しています。

 

しかし、この事案では弟が、亡母の相続の際にその多くを取得し、その後も亡父から一定の経済的利益を受けていたという事情から、亡父の相続にあたっては、兄がその相続財産のほとんどを取得したという経緯があったこと、債権者も、相続が起こる前にお金を貸しているので、相続財産をあてにしてお金を貸したものではないこと(債権者には期待権がない)などを理由に否認権の行使を認めませんでした。

 

遺産分割協議が否認されるかどうかは、そのような遺産分割をするに至るまでの家族間の事情や、債権者の期待権の有無など具体的な事情によって異なるといえます。

 

また、自己破産では、遺産分割協議が、「財産を不当に減少させる行為」であると認められると、免責不許可事由に当たると判断され、借金を免責してもらえなくなる可能性もあります。

 

②個人再生

個人再生には、否認権はありません。しかし、否認対象行為によって減少した財産は、清算価値に上乗せされることになっています。

 

例えば、住宅ローン以外の総債務額が、1,000万円であれば、その5分の1は200万円です。この人の財産の清算価値が50万円しかなければ、弁済額は200万円となり、これを原則として3年間で返済できるように計画を立てればよいことになります。

 

しかし、遺産相続による法定相続分が250万円あったのに、これを0円とするような遺産分割協議を行っており、これが、否認対象行為であると判断された場合には、この250万円が清算価値に上乗せされます。

 

そうすると、この人の清算価値は300万円になりますから、弁済額は、300万円を下回ることができないということになってしまいます。

 

4.選択できる対策

 

選択できる対策

4−1.相続放棄

相続放棄とは、相続が開始した後に、相続人になることを拒否することです。

 

相続放棄の手続きを行うと、最初から相続人ではなかったという扱いになります。そうすると、相続人の財産も借金も一切、引き継ぐことはありません。
借金だけ放棄して、財産はもらうという「いいとこ取り」はできません。

 

自分が相続を放棄すれば、他の相続人(他の兄弟など)の取り分が大きくなります。

 

①手続きは3ヶ月以内に

相続放棄は、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄することを申述するという手続きをとる必要があります。

 

「自己のために相続が開始したことを知ったとき」とは、原則として、①相続人が相続開始の原因事実を知り、②それにより、自己が相続人になったことを覚知したときとなります。

 

②遺産分割と相続放棄の違い

遺産分割協議は、詐害行為取消権を行使されたり、否認権を行使されたりする可能性があるのに、相続放棄は大丈夫なの?と疑問に思われるかもしれませんが、これは、遺産分割と相続放棄は、その性質が違うから扱いが変わっているので大丈夫だということになります。

 

最高裁判所の平成11年6月11日判決に示されているとおり、遺産分割は財産行為であるのに対し、下記の判決のとおり、相続放棄は身分行為だからです。

 

最高裁判所昭和49年9月20日
「相続放棄のような身分行為については、民法424条の詐害行為取消権の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、右取消権の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、相続の放棄は、相続人の意思からいっても、また法律上の効果からいっても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである」

 

身分行為とは、結婚するとか、離婚するとか、養子縁組する、認知するなどのように、身分に関する法的行為のことで、原則として当事者の意思決定が重視されます。

 

相続放棄も、相続人になるかならないかを決める行為であるため、身分行為です。
これに対して、遺産分割は、相続人になった人たちによって、財産を分ける行為にすぎないため、財産行為なのです。

 

そして、民法424条2項は、財産権を目的としない行為には適用しないとされていることから、身分行為である相続放棄には適用されないのです。

この財産行為と身分行為の違いは、否認権にも当てはまりますので、相続放棄したことを否認されることはありません。

 

4−2.早めに債務整理しておく

もっとも望ましいのは、相続が開始する前に、適切に債務整理しておくことです。

 

個人再生では、裁判所が再生計画の認可決定を出したときに、個人再生の効力が確定しますので、その後に得ることになった財産は保有することができます。

 

自己破産でも、裁判所が破産手続き開始決定をしたときの債権と財産が基準となりますから、その後に得ることになった財産は保有することができます。

 

つまり、個人再生の場合には再生計画の認可決定以降、自己破産の場合には破産手続開始決定以降に相続が発生した場合には、遺産相続が債務整理に影響を与えないということです。

 

いつ相続が発生するかということを予測することは困難ですが、債務整理が必要な状況に陥っている場合には、早めに行動しておくことが大切だと言えます。

 

○埼玉県で債務整理をするならエクレシア法律事務所

大きな悩みを抱えているとき、なかなか決断できないことはよくあります。しかし、悩んでいるうちにいろいろと状況が変わってくることは珍しくありません。もうちょっと早く決意して債務整理をしておけば、3ヶ月以内に相続放棄の手続きを取っていれば、などと後悔しても、あとからカバーすることができません。

 

また、遺産分割協議を行う場合に、その遺産分割の方法が、詐害行為取消権や否認権行使の対象になるかどうかという判断は弁護士でなければ難しいものです。とにかく早めに債務整理や相続に強い弁護士に相談するべきでしょう。

 

埼玉県越谷市にあるエクレシア法律事務所は、債務整理の解決実績が非常に豊富で、借金問題解決に強い弁護士が在籍している弁護士事務所です。埼玉県越谷市の他にも、埼玉県東部地方(春日部市、川口市、吉川市、草加市、八潮市、三郷市周辺)、東京都足立区、千葉県柏市、流山市、松戸市周辺などの近隣の方からもご相談・ご依頼を承っております。

 

任意整理、個人再生、自己破産全てにおいて適切なアドバイスをすることが可能です。債務整理をしたいが自分はどの手段を取るべきか分からない、といった方でも是非ご相談ください。

 

ご予約は、お電話もしくはメールフォームより承っております。

 

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